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低PERと高PERの需給分析:信用取引データを元に実証

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PERを変化させる要因

PERとは、次の式で定義される。

PER=PriceEPSPER = \frac{Price}{EPS}

つまり、ある銘柄の市場価格は何年分の利益となるかということである。 理屈としては、毎年生み出す純利益が変わらないとき、PERが10倍であれば、10年間持っていれば回収できるということである。

これをDCF法を用いて式変形をすると、次の通り。(式変形はこちらのページ

PER=1rgPER = \frac{1}{r-g}

r: 資本コスト g: 成長率

この式から次の関係がわかる。

PER低い高い
資本コスト
成長率

ここで、ポイントとなるのは、資本コストも成長率もあくまでも市場の期待を反映させたものである。

つまり、実際の成長率が同業界内で高くても、PERが同業よりも低いことがありえる。

それは、市場内の競争力が低く、今後は低成長となることを織り込んでいる可能性がある。

PERが見直されるタイミング

PERが同業界の水準より低い銘柄を対象とする投資をバリュー株投資や割安株投資ということがある。

実際の例として、次の人たちが有名である。

ウォーレン・バフェット

世界有数の大富豪であり、オハマの賢人、投資の神様とよばれる人物もバリュー株投資で成功している。

バフェットはIBMやコカ・コーラ、アメックスなどを割安のときに買って、保有し続けることで有名である。

日本株では、2020年8月に日本5大商社である、伊藤忠商事、 丸紅、 三菱商事、 三井物産、 住友商事をそれぞれ5%以上購入していました。

当時は、商社株は万年割安株と言われていました。

8058三菱商事PER推移バフェットコード

引用: バフェット・コード - 8058

東証の集計によると、日本の株式市場全体のPERは14倍~16倍となっています。

一方、商社株の1例としてあげた、三菱商事は2022年はPER5~6倍程度、その後2024年には10倍を超え割安感が減っています。

また、EPSの変化は次の通り。

年度EPS
2022年221.7
2023年269.8
2024年230.1
2025年(四季報予想)271.9

グロース株のような大きな変化ではありませんが、平均6%程度の成長を果たしています。

また、株主還元に積極的で、自社株買いや連続増配を行っています。

株価を見ると、2020年8月末は837.5円(分割前2,512.5円)に対して、2024年9月末2,952.5円はであり、3.5倍となっています。

年のリターンに換算すると約36%となります。

清原達郎

2005年長者番付1位となり日本一のサラリーマンとして有名なファンドマネージャー。

著書にて、小型割安株の投資手法を語っており、実例として2146 UTグループを紹介していました。

製造業派遣会社であるUTグループは、リーマン・ショック後の製造業が一斉派遣切りを行った影響で、当期損失を100億円以上も計上しました。

その後、2012年に株価250円、PER7.2倍で買い始めたそうです。リーマン前の4分の1の価格だったそうです。

その後、新株予約権の発行等で株価が上下しますが、2017年に株価1,547円~3,010円で売却したそうです。

3,010円で、PER34.5倍となっています。

つまり、EPSが2012年35円だったものが、2017年には87円となり、5年間で2.5倍となりました。

年に換算すると、平均20%成長と高成長企業となっていました。

清原達郎氏は著書にて、EPS成長とPERが高まることを 「Valuationのはしごを上る」 と表現しています。

バリュートラップ

では、PERが低いものを買えばよいのでしょうか。

そうではありません。PERが低いものは低いまま株価があがらないバリュートラップがあるのです。

割安と市場から評価される銘柄は、低成長や構造的な問題を抱えているとされています。

美人投票である株式市場において、割安という評価を覆すには、大きな理由が必要です。

それが、カタリストとよばれる大きな材料です。

カタリスト=Catalystの語義は触媒であり、価格変化を促進する材料として、使われている言葉です。

カタリストの例

ウォーレン・バフェットの商社株でいうと、東証のPBR改善要請によるものが大きいと思われます。

2022年4月に再編以降、東証が上場企業に対する経営改善の要請が増え、2024年にはPBR1倍割れ企業に対する改善措置を開示するように要請しています。

その結果、株価を押し上げるための増配や自己資本を減らすための自社株買いなどがプライム上場を中心に行われています。

特に、好業績が続いていた商社は積極的な自社株買いが行われているため、株価が上昇したと考えられます。

また、清原達郎氏のUTグループでいうと、2017年に製造業の景況感が過去最高を更新したことが直接的なきっかけだと考えられます。

業績が上がっていたことは確かですが、それ以上の株価上昇、つまり、PERがあがったのは、製造業の好業績に起因するものだと考えられます。

需給観点で値が重い銘柄を考える

カタリストを予測することは難しいですが、バリュートラップになりそうなものを考えることはできないのか。

株価は需給要因で変化することを考えると、信用取引のデータにより値上がりしづらい銘柄かわかるのではないかと考えました。

信用取引データとは

信用取引とは、証券会社から資金や株式を借りて行う取引のことです。

また、実際に市場に存在する株式を超える売買ポジションを作り出せる仕組みとなっており、人気株であるほど浮動株以上売買がなされています。

日本証券金融の貸借取引情報より、銘柄別の制度信用取引の新規信用取引と残高の情報を確認できます。

制度信用取引は半年間で返済が必要となります。

つまり、信用買いは半年後までには売る必要があり、信用売りは半年後までに買う必要があります。

よって、一般的には信用買いが多いと売り圧力となり、値段が上がりにくいと言われています。

実証にあたって

ゴールドマン・サックス証券が選定した高パフォーマンス銘柄とされるサムライセブンの内、半導体銘柄のアドバンテスト(6857)とSCREENホールディングス(7735)について調べてみる。

理由としては、2024年10月現在日経平均株価がもみ合う中、アドバンテストは最高値を更新し、SCREENホールディングスは最高値から半値近く下げています。

また、アドバンテストのPERは54倍、SCREENホールディングスは12倍と差があり、低PERと高PERと需給の関係性を明らかにできると考えた。

同じ半導体銘柄として市場に人気のある銘柄であってもなぜ差がついたのか、PERが投資家行動に及ぼす影響を需給の観点から分析する。

データ

日本証券金融株式会社の貸借取引情報と四季報のデータを使用する。

銘柄、営業日別に「融資新規」、「融資返済」、「融資残高」、「貸株新規」、「貸株返済」、「貸株残高」、「ネット残高」が並ぶ。

融資は信用買いのことで、貸株は信用売りのことである。

この株数に対して、貸借倍率と回転日数を計算して、需給の偏りを分析することが一般的である。

信用倍率=融資残高貸株残高\text{信用倍率} = \frac{\text{融資残高}}{\text{貸株残高}} 回転日数=(融資残高の平均+貸株残高の平均)×2(融資新規+融資返済+貸株新規+貸株返済)/営業日数\text{回転日数} = \frac{(\text{融資残高の平均}+\text{貸株残高の平均}) \times 2}{(\text{融資新規} + \text{融資返済} + \text{貸株新規} + \text{貸株返済}) / \text{営業日数}}

※営業日数は5日とする

四季報には各情報が並ぶが、需給に関連するデータとして、株主情報を考える。

株主欄には持株比率の高い株主が並ぶが、その下に株主の種類による比率がある。

  1. 外国: 外国国籍の個人、外国の法律により設立された法人
  2. 投信: 投資信託組み入れ
  3. 浮動株: 1単元以上50単元未満
  4. 特定株: 大株主10位までと役員持ち株、自己株式(いわゆる、少数特定者持株数)

2や4は株価が下がっても売ってくることはほとんどないと考えられるが、1は3はパフォーマンスにより左右される。

特に3の浮動株が多い場合は、目先のパフォーマンスに左右されやすく、買う人も売る人も多いと考えられる。

そのため、値上がりも値下がりも緩やかな傾向がある。

※これがいわゆる流動性であり、突発的な動きに左右されず売買できる銘柄と言える。

実証

上記のデータを纏めてみる。

コード銘柄2024年3月末2024年半年間のパフォーマンス
6857アドバンテスト6,8196,741-1.1%
7735SCREENホールディングス19,9659,973-50.0%
日経平均40,369.4437,919.55-6.1%
コード銘柄3月末 信用倍率3月末 回転日数9月末 信用倍率9月末 回転日数
6857アドバンテスト92.83.10.62.6
7735SCREENホールディングス255.1613.271265.86
コード銘柄外国浮動株投信特定株
6857アドバンテスト39.60%4.40%33.80%57.90%
7735SCREENホールディングス31.40%10.30%16.00%44.10%

考察

半導体銘柄が盛り上がっているなか、参加が遅れた投資家が少しでも割安な銘柄として、SCREENホールディングスを選択している可能性がある。

そして、買いが多く、売り圧力が強い中、全体相場がもみ合う中、株が回転せず、失望売りも重なり、パフォーマンスが悪化したと考えられます。

成長期待により、株を買うのであれば、PERではなく、成長性を考えるべきなのかもしれません。

まとめ

「信用倍率が高い銘柄や回転日数が長い銘柄は、需給悪化が予測できるため、上昇しにくいリスクがあります。これらのデータを参考にすれば、投資判断のリスク管理にも役立てられる。

高パフォーマンスで、市場の人気も高い半導体銘柄ですが、PERの大小により投資家の行動が需給に影響を及ぼし、パフォーマンスに影響を与えていると考えらるのではないかとわかりました。

今後は、信用取引データを見てみることで、投資家の行動を想像できるかもしれません。

参考資料

  1. 「圧倒的な説得力」バフェット氏が注目する日本の【5大商社】決算と株主還元策を解説

  2. 規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧

  3. 「わが投資術 市場は誰に微笑むか」清原達郎

  4. 2017年10月の景気動向調査

  5. 日本証券金融株式会社 貸借取引情報

  6. 「会社四季報2024年秋号」東洋経済

  7. 信用情報と回転日数を確認しよう! - auカブコム証券