掉尾の一振とは
日本の株式市場において「掉尾の一振」(とうびのいっしん)という相場格言があります。
年内最終取引日である大納会に向けて株価が上がりやすいとされるアノマリーを指します。
※アノマリーとは、理論的な説明ができない現象に対する相場の経験則です
アノマリーの理由として想定される要因
- 節税売りの一巡
日本の税制は1月から12月の所得に対して、課税されます。
株式売買の税金、上場株式等の譲渡所得も受渡日が年内の取引を対象として、利益が出たら税金が約20%かかります。
そのため、実現利益が出た場合は、保有している評価損を実現させることで利益を減らし税金を減らすということが行われます。
これが、節税売りとよばれます。さらに、株式の譲渡損益は最大3年間通算可能であり、評価損を実現させることで翌年以降の節税対策にも活用できます。
そのため、年内の取引や相場状況を見て、12月に売り物が出やすく、出た利益から安値になったものを買いに回るため、年末にかけてあがるのではないかという仮説です。
- 機関投資家の「お化粧買い」
ドレッシング買いとも呼ばれ、機関投資家が保有する株式の評価額を上げる目的で買い注文を入れることがあります。
特に、年間のパフォーマンスで評価されるファンドマネージャーは少しでも評価益を増やすことで、自身の成績を高めようとします。
そのため、追加で株式を買うことで、株価があがるのではないかという仮説です。
- 新年相場への期待
年が明けることで、機関投資家が新たな投資戦略やポートフォリオの見直しで新たな買いが入るのではないかという期待感から先回りして買われるという仮説です。
また、海外投資家は年末の前にクリスマス前後から休暇をとることが多く、それまでに縮小していたポジションを戻ってきた年明けから新規でポジションをとるのではとも言われています。
データによる検証
Investing.comで取得した12月の月足データの騰落率(始値と終値の変化率)を計算しました。
日経平均株価の12月の騰落率
データの取得できた1984年~2023年までの40年間分を結果をまとめました。
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勝率: 65.0% (26勝14敗。2003年以降は68.2%)
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平均利回り: 1.0%(2003年以降は2.2%)
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最高リターン: 12.9%(2009年、次は2012年の10.1%)
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最低リターン: -10.5%(2018年、次は1997年の-8.3%)
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直近の結果
年 | 始値 | 終値 | 騰落率 | 結果 |
---|---|---|---|---|
2023 | 33537.44 | 33464.17 | -0.1% | 負け |
2022 | 28273.13 | 26094.5 | -6.7% | 負け |
2021 | 27866.73 | 28791.71 | 3.5% | 勝ち |
2020 | 26624.2 | 27444.17 | 3.8% | 勝ち |
2019 | 23388.63 | 23656.62 | 1.6% | 勝ち |
データ: Investing.com 日経平均株価
TOPIXの12月の騰落率
データの取得できた2003年~2023年までの21年間分を結果をまとめました。
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勝率: 71% (15勝6敗)
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平均利回り: 2.0%
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最高リターン: 10.0%(2012年、次は2009年の8.1%)
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最低リターン: -10.4%(2018年、次は2022年の-4.7%)
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直近の結果
年 | 始値 | 終値 | 騰落率 | 結果 |
---|---|---|---|---|
2023 | 2385.23 | 2366.39 | -0.4% | 負け |
2022 | 1996.72 | 1891.71 | -4.7% | 負け |
2021 | 1930.88 | 1992.33 | 3.3% | 勝ち |
2020 | 1765.55 | 1804.68 | 2.8% | 勝ち |
2019 | 1705.99 | 1721.36 | 1.3% | 勝ち |
データ: Investing.com TOPIX
上場株式の騰落レシオ
騰落レシオとは、値上がり銘柄数/値下がり銘柄数の計算結果であり、100%を基準にして、それを上回ると値上がり銘柄が多いことを示します。
一般に120%をマーケットに過熱感ありと判断され、70%まで落ち込むと底値ゾーンとも言われます。
日経平均株価やTOPIXはあくまでも指数であり、値がさ株や時価総額が大きい銘柄の影響が大きいですが、騰落レシオを見ることで、どの銘柄も満遍なく資金が入っている、つまり、投資家が儲かっている可能性が高いかを考えてみます。
東証に上場している銘柄の値上がり銘柄数、値下がり銘柄数と騰落レシオを2010年~2023年の13年間分の結果です。
※個人で収集している株価データなので、差異があります(上場廃止、データ取得漏れなど)
年 | 値上がり銘柄数 | 値下がり銘柄数 | 騰落レシオ | 日経平均株価の騰落率 |
---|---|---|---|---|
2023 | 1,827 | 2,362 | 77% | -0.07% |
2022 | 1,021 | 3,110 | 33% | -6.70% |
2021 | 2,588 | 1,504 | 172% | 3.49% |
2020 | 2,049 | 1,860 | 110% | 3.82% |
2019 | 2,227 | 1,562 | 143% | 1.56% |
2018 | 214 | 3,498 | 6% | -10.45% |
2017 | 2,222 | 1,348 | 165% | 0.18% |
2016 | 2,275 | 1,149 | 198% | 4.40% |
2015 | 941 | 2,378 | 40% | -3.61% |
2014 | 1,687 | 1,481 | 114% | -0.05% |
2013 | 1,956 | 1,090 | 179% | 4.02% |
2012 | 2,400 | 580 | 414% | 10.05% |
2011 | 1,489 | 1,368 | 109% | 0.25% |
2010 | 2,347 | 472 | 497% | 2.94% |
日経平均株価の勝敗と騰落レシオの100%の上下は一致しています。
考察メモ
- 勝率は日経平均株価で65%、TOPIXで71%と高勝率のため、アノマリーが成り立つと言えそう
- 平均リターンは2003年以後は2%程度。月なので、年利になおすと26%
- 月利2%を年利に換算すると、(1+0.02)^12 - 1 ≈ 26% となります。
- 指数の期待リターンが8%と考えると、12月に保有するほうが有利といえます
- 2009年と2012年は10%以上の上昇
- 2009年は前年のリーマン・ショック以後の世界的に巨額な経済対策、政権交代による民主党政権誕生、中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)の制定による緩和措置
- 2012年は自民党の圧勝により政権交代。安倍首相による金融緩和に期待。
- 2009年はモラトリアム法は金融業界にはマイナス。そのため、時価総額が大きい銀行銘柄のパフォーマンスが悪く、日経平均株価の上昇が高かったと考えられます
- 一方、2012年は金融緩和は金融業界にプラス。そのため、時価総額が大きい銀行銘柄などのパフォーマンスが高く、TOPIX型が有利だったと考えられます
- 2018年に日経平均、TOPIXともに10%の下落
- 米中対立、イギリスのEU離脱の先行き不透明感やFRBの利上げ継続強行から海外投資家の売却が目立った株式市場、記録ずくめの2018年 日経平均7年ぶり下落
- 2012年は日経平均が10%上昇に対して、騰落レシオが400%超え。ほとんどの銘柄が上がっていると考えられます。
- また、2012年と2010年を除くと、上昇している年の騰落レシオは、100%~200%。つまり、上がっている銘柄は、半分~6割程度
- 一方で、2018年は10%下落に対して、騰落レシオが6%。ほとんどの銘柄が下がっています。
- また、下落した2022年、2015年は騰落レシオが30%~40%と7割の銘柄が下落
- 騰落レシオをあわせてみると全体の銘柄が上昇しているわけではなく、指数に強い影響を与える一部の銘柄が上昇している可能性が高いため、個別株で勝負するのは分が悪いかもしれません。
まとめ
株価指数においては、掉尾の一振というアノマリーが存在することが判明したと言えます。
一方で、騰落レシオを見ると、すべての銘柄がそのアノマリーに当てはまるわけではないことがわかります。
特に、アノマリーが外れるときは、7割の銘柄が下落していることに対して、アノマリーが成り立つ際も半分~6割程度の銘柄のみ成立。
指数への影響が大きい銘柄を中心に買いが集まることで、機関投資家の『お化粧買い』がアノマリー形成の一因となっている可能性があります。
投資戦略としては、12月に安値のところで、指数系のETFや先物の売買が良いのかもしれません。
損を出している銘柄については、『掉尾の一振』に過度な期待を抱かず、冷静に損切りを検討することが重要です。(自戒の念を込めて)