2025年4月2日「解放の日」
2025年1月に米国大統領に就任したトランプ氏。就任以降、一貫して「アメリカを取り戻す」と主張し、その一環として相互関税を発令した。
2025年4月5日から一律の10%の関税を、9日から中国を始めとする特定諸国に上乗せ関税をかけることになる。
各国は反発し、対抗措置をとることを検討している。
参考:【解説】 トランプ関税は懲罰か「贈り物」か 4つの国と欧州はどう見ているのか
関税の影響を真っ先に受けるのが、景気の先行指標である株価である。
米国の各種指標は次の通り。約1週間で9%もの下落となっている。
指標 | 3月末の終値 | 4月4日の終値 | 変動 |
---|---|---|---|
NYダウ | 42,001.76 | 38,314.86 | -3,686.9(-8.8%) |
S&P500 | 5,611.85 | 5,074.08 | -537.77(-9.6%) |
NASDAQ | 17,299.287 | 15,587.786 | -1,711.501(-9.9%) |
また、金融株の下落が大きく、KBW銀行株指数は約16%と報じられている。
米銀行株指数、2日間の下げはコロナ禍初期以降で最大-貿易戦争懸念
一方、日本の指標は次の通り。3月末から見ると5%程度のため、まだまだ下落余地がありそうにも見える。 ※TOPIXが大きいのは、アメリカ同様時価総額の大きい銀行株等の下落が大きいからと考えられる。
指標 | 3月末の終値 | 4月4日の終値 | 変動 |
---|---|---|---|
日経平均 | 35,617.56 | 33,780.58 | -1836.98(-5.2%) |
TOPIX | 2,658.73 | 2,482.06 | -176.67(-6.6%) |
しかし、権利落ちや期初の益出し等の影響もあり、3月末時点で大幅な下落をしている。そのため、権利落ち日から比較すると次の通り。 TOPIXは10%安と米国市場以上に大きな下落と日本市場は受けていることになる。
指標 | 権利落ち日 | 4月4日の終値 | 変動 |
---|---|---|---|
日経平均 | 37,120.33 | 33,780.58 | -3,339.75(-9.0%) |
TOPIX | 2,757.25 | 2,482.06 | -275.19(-10.0%) |
今後の投資を考える上で、どの程度の水準までは想定されるか理論株価の観点から考えてみたい。
理論株価の算出方法
DCF(ディスカウントキャッシュフロー)では、「企業価値とは、その企業が将来に生み出すキャッシュフローの現在価値」と定義されている。 このことから、企業価値を時価総額と置き換えると、 株価=EPS/(r-g) とかけることが導出される。
また、株価をEPS(一株当たり利益)で割った値はPERと言われるが、上記の式から PER=1/(r-g)・・・(*) とかけることがわかる。
導出方法:DCF法に基づくPER分析:企業価値と成長率の関係を探る
各値の補足
- r: 株式投資のリスクプレミアム - リスクフリーレート
リスクプレミアムとは、期待収益率から無リスク資産の収益率を引いた値であり、TOPIXなどの指標からの過去実績が使われる事が多い
- g: 成長率
利益の再投資による成長、もしくは、株主価値の増大つまり、配当成長や自社株買いによるEPS成長を指す
使用データ
2024年8月に日銀の植田総裁の発言による暴落があったことから2024年8月、9月とその半年後となる2025年2月、3月の数値を使って考えてみる。
- 日経平均株価
2024年8月・9月のレンジは8月5日の31,458.42円を下限に9月2日の38,700.87円が上限となる
2025年2月・3月のレンジは3月31日の35,617.56円を下限に2月6日の39,066.53円が上限となる
- EPS
下記サイトの加重平均EPSを用いる。
2024年8月・9月のレンジは2405.50~2505.50
2025年2月・3月のレンジは2434.56~2564.10
※日経平均の計算上、予想EPSには加重平均と指数ベースの計算方法があるが、一般的に使われる加重平均方式をつかう
- リスクフリーレート
ここでは、日本の10年国債を使用する。昨今の金利上昇に伴い、2024年8月・9月は0.80%~1.00%であったが、2025年2月・3月1.25%~1.50%となる。
- リスクプレミアム
TOPIXの過去実績から5~6%と言われており、より長期でとる、例えば1952年末~2022年末とすると8.65%となる。
ここでは、実務的に使われる6.5%を採用することとする。
直近の株価を使った算出
rやEPSは予想が含まれるため、表内の計算では丸めた数値を利用することにする。
gを逆算して「市場が織り込む成長率」を見る
最初の(*)式よりg = r - EPS/株価とかける
2024年8月・9月 | 2025年2月・3月 | |||
---|---|---|---|---|
下限 | 上限 | 下限 | 上限 | |
株価 | 31000 | 38500 | 35000 | 39000 |
EPS | 2450 | 2450 | 2500 | 2500 |
リスクプレミアム | 6.50% | 6.50% | 6.50% | 6.50% |
リスクフリーレート | 0.90% | 0.90% | 1.30% | 1.30% |
成長率g | -2.3% | -0.8% | -1.9% | -1.2% |
もし、8月の暴落時31,000円台とすると、g=-2.9%まで減少する
gの考察
- EPSは2450円から2500円と半年で約2%の増益。四季報予想の東証プライムの純利益の当期比5.8%増加予想と整合性は取れるのではないか。
- リスクプレミアムが6.5%で計算すると、成長率gがマイナスになってしまう。つまり、「利益が減り、配当も減り、自社株買いも期待できない」という世界観である。
- 現在の株主還元政策(配当性向上昇・自社株買い活発化)をふまえると、gがプラスであることは期待して良い
- つまり、日本の株式市場におけるリスクプレミアムが高まっているのではないかと考えられる
g=0%と仮定して、EPSがどこまで減るとこの株価になるか?
g=0を固定して、EPSを考える。 これは、成長率による効果を考えずに、予想EPSを減衰させることを意味している。
最初の(*)式よりEPS = 株価 / rとかける
2024年8月・9月 | 2025年2月・3月 | |||
---|---|---|---|---|
下限 | 上限 | 下限 | 上限 | |
株価 | 31000 | 38500 | 35000 | 39000 |
リスクプレミアム | 6.50% | 6.50% | 6.50% | 6.50% |
リスクフリーレート | 0.90% | 0.90% | 1.30% | 1.30% |
成長率g | 0% | 0% | 0% | 0% |
EPS | 1736 | 2156 | 1820 | 2028 |
もし、8月の暴落時31,000円台とすると、EPSが1612まで下がる
EPSの考察
- EPSの水準が8月~9月と2月~3月で切り上がっていることからある程度、DCF法が機能していることがわかる
- 関税の影響で35000円をつけたが、逆算によるEPSでは高値のときに比べて10%ほど減る
- つまり10%減益と考えるとシナリオとして成り立ちそうである
- 一方で、8月の暴落水準まで下落すると-20%であり、1/5がなくなることを想定するのは難しいのではないか
その他の考慮点
- トランプ関税により、ドル安が進んでいる。企業の想定為替レートが150円に対して、4月に入り一時145円をつけた。
- しかし3%ほどであり、トランプ政権に入り、円安期待による業績向上の期待は剥離していると考えてもよいと考えられる。
注意点
- 日経平均株価の算出は単純平均であり、加重平均EPSは株価によって左右されてしまうため、会社予想が変わらなくとも動いてしまう
今後の動き
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5月の決算と株主総会で「EPS予想」「還元方針」がどう出るかを見極める
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現在の株価は“g=0%前提”に見えるが、それが崩れなければ買い場であると考えて行動する
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日本の株式市場のリスクプレミアムが想定以上に高まっている可能性が高く、長期目線で投資をするチャンスではないか。