物語プロンプトとは
アメリカのテキサス州にあるベイラー大学の研究者が発表した論文「ChatGPT Can Predict the Future when it Tells Stories Set in the Future About the Past」により検証された「未来の物語」戦略により、ChatGPT等のLLMによって未来を予測させる手法である。
具体的なChatGPTなどのLLMへの指示は「予測したい未来の出来事について、まるでその出来事がすでに起きたかのように、未来の登場人物たちが語り合う物語をChatGPTに作らせる」ことでAIに未来を予想させることである。
そのまま、ChatGPTに「~~について、今後の予想をしてください」と尋ねると、「正確なことは言えません」となりますが、この「未来の物語」戦略を使うと、LLMが自らの予想を作り出してくれる。
参考:ChatGPTの予測能力を爆上げするプロンプトが判明、「物語プロンプト」とはいったい何か?
実験について
2025年3月、メルコホールディングスの牧寛之社長がBASE株式会社(4477)の株式を買い増し、TOBがなされるとされていますが、その結果の予想をさせてみました。
その1
事前にBASE株についての情報を調べさせた上で、次の質問をしました。
- プロンプト
2026年の初め、著名投資家と株式アナリストであるサラとジョンはカフェで話しています。サラは言いました。『去年の4477BASE株は本当に盛り上がったよね。ジョン、覚えてる?3月以降の動きどうだったか?』。ジョンが答える物語を続けてください。
- 回答
ジョンはコーヒーをひと口すすり、少し微笑んでサラに答えた。
「もちろん覚えてるさ。あれはまさに“仕掛けられた春”だった。3月、メルコHDの牧社長が大量保有報告を出したあたりから、BASE株は一気に市場の注目を集めた。保有比率が8%に届いたことで、市場では“敵対的買収じゃないか?”って憶測が飛び交ってね。しかも、会社側もすぐに反応して、大規模買付行為への対応方針を打ち出しただろ?」
サラはうなずきながら、「あれ、事実上のポイズンピルだよね。結構踏み込んだ対応だった」と言った。
ジョンは続けた。
「そう。それで一時的に株価が乱高下したんだけど、4月から夏にかけては新しい提携や販促イベントが連発して、業績改善への期待が高まった。BASEって“物語”のある銘柄だからさ。個人投資家も多くて、Twitter界隈も賑わってた。特に6月のあの決算。売上は微増だったけど、広告費の最適化が効いて営業損失が縮小してたろ?あれで期待が再燃した」
サラは目を輝かせて言った。「私、あのタイミングで一部利確したの。ちょっと早かったけど、正解だったかも」
ジョンは笑いながら言った。
「いや、さすがだよ。9月にはまた調整が入ったしね。結局、年末には買収劇みたいな話には発展しなかったけど、BASEという企業の“市場価値”について再評価が進んだ1年だったのは間違いない。で、2026年はどうなると思う?」
サラはコーヒーカップを置き、少し考えてから言った。
「次は、“誰と組むか”がテーマになるんじゃない?独立路線を維持するのか、それとも資本提携か。いずれにせよ、また動きがありそうよ」
物語は、カフェの窓の外に広がる冬の青空の下、次なる相場のドラマを予感させながら、静かに続いていく──。
具体的な数値はないが、4月以降の動きや個人投資家の動きを物語にしている。また、6月決算とあるが、BASEは12月期のため、6月は半期決算のことを指しているのかもしれない。
そうなると8月ぐらいに急騰して、9月に調整するという話が書かれており、実際にありそうな値動きとなっている。
一方で、具体的な株価が書かれていないことから、次のプロンプトでは、数値を参考にさせたらどうなるかと考えた。
その2
BASE株についての情報を調べさせず、こちらから参照データを与えた。
- プロンプト
次の情報をもとに、ジョンが答える物語を続けてください。できる限り数値を置いてください。
# 物語
2026年の初め、著名投資家と株式アナリストであるサラとジョンはカフェで話しています。サラは言いました。
『去年の4477BASE株は本当に盛り上がったよね。ジョン、覚えてる?2025年3月以降の半年の動きどうだったか?』。
# 参照データ
- IR
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250313/20250313593320.pdf
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250319/20250319597147.pdf
- 株価データ
https://finance.yahoo.co.jp/quote/4477.T/history
- 回答
ジョンはコーヒーを一口飲み、少し考えてから答えた。
「もちろん覚えているよ、サラ。2025年3月、メルコホールディングスの牧寛之社長がBASEの株式を大量に買い集めたことで、市場は大いに揺れたね。彼の保有比率は14.25%に達した。 その影響で、BASEの株価は急騰し、3月12日には年初来高値の538円を記録した。
しかし、その後は調整局面に入り、3月21日には終値496円まで下落した。 その後、BASEはEストアー社とのM&Aを発表し、8月以降に連結開始予定とした。
これらの動きにより、BASEの企業価値は再評価され、株価は再び上昇基調に乗った。2025年12月期の連結業績予想では、売上高196億円(前年同期比22.6%増)、営業利益10億円(同29.4%増)を見込んでいる。 これらの好材料が重なり、投資家の期待感が高まった一年だったね。
サラは微笑みながら、「本当に激動の一年だったわね。これからのBASEの動きにも注目が集まるわ」と言った。
ジョンは頷き、「そうだね。これからも目が離せない存在だ」と答えた。
数値をもとにデータは正確なものをいれてくれるが、EストアのM&Aは昨年度のため、事実認識が違うものが入っている。 参照データを与えると、そのデータを優先的に使用する様になるのかもしれない。
まとめ
ChatGPTに自ら調べさせた結果から予想させると、それっぽい物語を作り出した。
一方で、ユーザーがデータを参照する指示を出すと、具体的になる一方で、自らの予想は入ってこなくなった。
予想をさせるには、LLM自体にその予想が必要なデータを収集させることが必要なのかもしれない。
逆に、参照データを引き渡すと、それをもとにしようとするため、お問い合わせなど定型的な応答は十分活用できるのではないかと改めて認識した。
参照データを与えたとき、時系列に間違いが発生してしまうことから、プロンプトの工夫が必要かもしれない。
分解して整理
-
物語プロンプトの有効性:
- 具体的な数値は出ないが、それっぽい市場ストーリーを生成できる。
-
参照データを与えた場合の挙動:
- データの整合性はやや不安だが、内容は具体的になる。
-
応用の可能性:
- 自由な発想がほしい場合は調査ベース、正確性が求められる場面では参照データベース。
-
課題:
- 時系列や事実関係に誤りが出ることがあるため、プロンプトやデータ選定には工夫が必要。
今後の課題
- 証券会社のセールスレポートによくある投資シナリオの構築に本手法の展開