12月は薬価改定の影響で製薬業界全体が市場平均をアンダーパフォームする傾向があります。
本レポートでは、2003年から2024年の月次リターンを分析し、製薬業界の季節性とその要因を探ります。
特に12月の安定したマイナスパフォーマンスと、8月のばらつきが大きいが好調なリターンに注目します。
薬価改定について
12月は、来年度予算の閣議決定がなされる。
2025年は総額115兆5415億円と過去最大で、その予算の内訳の中で最大なのは社会保障費であり38兆円となっている。
引用: 2025年度予算案決定115兆円 社会保障費、最大の38兆円
その社会保障費の中には、医薬品の公定価格である薬価改定も含まれる。
社会保障費は増大する中、医療費は648億円ほど削減される。
つまり、薬価引き下げがなされることで、患者の支払いと社会保険からの支払いが減る、一方で、製薬会社の収益は減ってしまう。
製薬会社の収益が減ることで、研究開発費が削られることで、将来的な収益性やそもそもの医療の発展が見込めなくなるリスクがある。
それを踏まえて、2024年の製薬会社のパフォーマンスは軒並み悪い。
東証の業種別インデックス(医薬品)を見ると、12月は-1%となっており、TOPIX全体が+4.2%に比べると業種全体で悪いことがわかる。
データ: 33業種別インデックス
月間の株価収益率を分析することで、12月のパフォーマンスにアノマリーがあるか検証する。
参考: 社会保障費抑制、製薬・高所得者負担で 高齢者の反発懸念
参考: 薬価、2500億円削減で合意 生活保護も見直し―閣僚折衝
分析設計
- 銘柄は次の17銘柄
- 東証の33業種分類の「医薬品」
- TOPIX Core30、Large70、Mid400
- 各銘柄ごとの月次のパフォーマンスを計算
- TOPIXとの差分リターンを計算することで、市場全体の影響を排除し、製薬業界の相対的なパフォーマンスを評価
- 上記の計算結果をもとに平均と標準偏差を計算する
- 12月の標準偏差が他の月に比べて大きいことが有意であれば、薬価改定の影響が大きい
対象銘柄と期間
2003年9月以降の下記銘柄のデータを使用する。
月次収益率は月初第1営業日の始値から月末最終営業日の終値の値上がり、値下がり率とする。
コード | 銘柄名 | 市場 | 東証33業種 |
---|---|---|---|
4502 | 武田薬品工業 | プライム | 医薬品 |
4503 | アステラス製薬 | プライム | 医薬品 |
4507 | 塩野義製薬 | プライム | 医薬品 |
4516 | 日本新薬 | プライム | 医薬品 |
4519 | 中外製薬 | プライム | 医薬品 |
4521 | 科研製薬 | プライム | 医薬品 |
4523 | エーザイ | プライム | 医薬品 |
4527 | ロート製薬 | プライム | 医薬品 |
4528 | 小野薬品工業 | プライム | 医薬品 |
4530 | 久光製薬 | プライム | 医薬品 |
4540 | ツムラ | プライム | 医薬品 |
4568 | 第一三共 | プライム | 医薬品 |
4578 | 大塚ホールディングス | プライム | 医薬品 |
4587 | ペプチドリーム | プライム | 医薬品 |
4887 | サワイグループホールディングス | プライム | 医薬品 |
4151 | 協和キリン | プライム | 医薬品 |
4536 | 参天製薬 | プライム | 医薬品 |
※個人で収集したデータのため、相違がある可能性があります。
データ: TOPIX
分析結果
月 | データ数 | 平均リターン | 標準偏差 |
---|---|---|---|
01 | 320 | 0.24 | 6.85 |
02 | 320 | -0.07 | 7.28 |
03 | 320 | 0.61 | 8.57 |
04 | 321 | -0.20 | 7.62 |
05 | 321 | 0.57 | 7.89 |
06 | 322 | 1.84 | 7.43 |
07 | 322 | 0.71 | 6.67 |
08 | 322 | 2.05 | 8.28 |
09 | 336 | 0.65 | 7.82 |
10 | 336 | -0.80 | 7.60 |
11 | 336 | -0.42 | 7.74 |
12 | 337 | -1.01 | 6.40 |
総計 | 3913 | 0.34 | 7.59 |
考察
- 平均リターンが+0.34%となっていることから、TOPIXよりも相対的に優れたパフォーマンスを示している
- 12月の平均リターンが-1.0%と、他の月よりもマイナスになっている。一方で、標準偏差は6.4と他の月よりも小さい
- つまり、薬価改定の影響が市場全体で事前にリスクとして織り込まれている可能性が高い
- 12月は一貫して市場平均よりもアンダーパフォームする傾向がわかった
- 8月は、+2%で年間を通してアウトパフォームしているが、標準偏差も大きい
- 銘柄間や時期的なばらつきが大きい
- 夏季休暇の市場閑散により、材料に飛びついた売買が大きいのではないか
8月は閑散相場において新薬承認や業績修正といった個別材料に敏感に反応する傾向が見られる。一方、12月は薬価改定が事前に織り込まれ、アンダーパフォームが一貫している
12月のアンダーパフォーマンスを考慮し、薬価改定のリスクを避けたい場合は11月中にポジションを縮小するのが有効