ペアトレードとは
価格が似通った動きをする2つの銘柄の一方を買い、もう一方を売ることで収益を狙う投資手法です。
たとえば、同じ業種の2つの銘柄をペアとして組み、両者の価格乖離が通常よりも広がったときに割高の銘柄を売り、割安の銘柄を買うことでポジションにエントリーし、平均に戻る過程で利益を得ることを目指します。
これは株価収益の差が平均に回帰するという現象を用いた投資戦略の一つである。
本レポートでは、これを定式化することで、収益源とリスクについて考える。
定式化
銘柄1, 2の時刻tにおける株価を次のようにおく.
この時、さや比を次のように定義する.
このさや比が正規分布に従うと仮定する・・・(*)
ペアトレードのポジションを仕掛ける時刻をt1, 手仕舞いする時刻をt2とする.
時刻t1ではさや比が開いており、その広がりを定数kとσを用いて表せるとする.
また、時刻t2ではさや比が平均に回帰している. これを定式化すると次の通り.
ここで定数kは平均からの乖離を表す.
(ボリンジャーバンドの±2σの2にあたる数値である)
ペアトレードで、ポジションを取るときに同金額や同株数、同ベータなどいくつか考え方が存在する. このレポートでは、同金額とする.
銘柄1は1株空売りし、銘柄2はS(t1)株購入すると考えると、仕掛けの金額は次のように定式化できる.
これは、ポジションを組む際、銘柄1を空売りし、銘柄2を買うときのネット金額が0、つまり、同金額となることを示す. ・・・(**)
手仕舞いは乖離が収束するつまり、さや比が平均に回帰するときに、銘柄1を買い戻し、銘柄2を売却する.
つまり、S(t2) = μ(t2) となるときである.
このとき、売買する株数は銘柄1は1株、銘柄2はS(t1)株である.(そのため、下記式にもS(t1)が含まれる)
よって、損益PL(t1,t2)は次のように表せる.
この式は次の2つに分解できる.
ペアが正規性を持たないリスクμ(t_2) - μ(t_1)は、本来収束すると考えていたさや比の平均が変わることで、収益性がなくなることである。
考察
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(*)のさや比が正規分布に従うという強い仮定を置いている
- ペアトレードにあたり、どのような銘柄を選定するかがポイントになってくる
- また、選んだ銘柄のさや比の平均が変わらないという保証はない
- 定性的には、片方の銘柄のみが影響する材料がある
- 例えば、9506東北電力と9509北海道電力は寒い地域であり、原発の比率が高く、似た動きをするはずが、北海道にデータセンターを設置する思惑で北海道電力が強く売買されることがあった
-
一般に、(**)のように同金額の売買をすることは難しい
- 銘柄によって株価帯が異なること
- 一般に売買は100株単位で行われること
- 資金面、信用取引の制約があること
- 低資金でやるのであれば、信用売りは100株にして、それにあわせる形で単元未満株を利用する方法もあるが、手数料が高くなることが多い
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kはパラメータであり、大きいとエッジ(収益源)は大きくなるが、一般的に大きい状況は起こりにくい
- 正規分布に従う時、k=1.96のとき、この乖離幅が発生する確率は5%であり、k=3となると0.3%である
- これは、正規分布表から明らかである(k=1.96やk=3が0.3%(千3つ)は有名な値である)
- 大きく乖離したところを狙うのが理論上は有利だが、発生頻度が低いため、乖離が発生した際は何か特別な理由があるかもしれない
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ペアトレードを実践するにあたり、次のことが課題に上がることが多い(東証の株式取引における)
- 売りと買いで手数料が2倍かかる
- また、信用取引を行う場合、同様に金利も発生する
- 単純に株価だけで考えると、権利落ちなども考慮されておらず、さや比が歪むと考えられる
- 価格差が大きい場合、板のティック差が大きいため平均に収束した取引ができないことがある(例えば、1万円を超えるTOPIX500以外銘柄は10円幅に対して、TOPIX500かつ1,000円以下の銘柄は0.1円刻みで値段がかわる)
今後の課題
- μとσの推定方法
- 移動平均・移動標準偏差にするのか、あるいはもう少し高度な手法(ARIMAやGARCHなど)を使う方法もある
- さや比の正規性の検定方法
- 時系列において共和分を考えることが多い
- 上場企業の中から効率的にペアを選定する
- クラスタリングなどの手法