はじめに
日本の多くの企業は3月末決算です。また、日本取引所では、決算短信を各四半期終了後45日以内に開示することを原則としています。
そのため、4月半ばから5月半ばまでは決算シーズンとして、多くの企業が本決算を発表します。
同時に、当期予想を発表することが慣例となっており、その予想によって株価変動が大きくなるタイミングでもあります。
この2025年の決算シーズンにおける株価の変化を見ることで、今年の投資戦略を考えてみます。
データとその方法
2025年3月~2025年5月の東証上場銘柄(プライム・スタンダード・グロース市場)を対象とする。
2025年5月末時点に上場していて、2025年3月からのデータが存在する企業のみとする。
値上がり率・値下がり率
3月最終営業日(2025年3月31日)から5月最終営業日(2025年5月30日)までの終値の株価変化率を計算した。
最終営業日に取引値がない場合は、直近の終値とする。(それぞれ過去5日以内に取引がない場合は除外)
出来高増加率
2025年3月と2025年5月の平均出来高の変化率を計算した。
サマリー
株価変化率のヒストグラムと基本統計量を計算したところ、次の結果を得た。
項目 | 統計量 |
---|---|
平均 | 4.26 |
中央値(メジアン) | 1.42 |
最頻値 (モード) | 0.00 |
標準偏差 | 15.53 |
分散 | 241.30 |
尖度 | 38.28 |
歪度 | 4.03 |
範囲 | 312.68 |
最小 | -82.26 |
最大 | 230.42 |
データの個数 | 3806 |
ここから、次のことがわかる。
- 決算シーズンを迎え、多くの銘柄で上昇している。 全体の**約57%(2,181銘柄)**が上昇 2025年初めトランプ政権誕生による不透明感があったが、払拭されてきたと考えることもできる。 日経平均で見ると、3月末35,617.56から5月末37,965.10と+6.59%となっている。
- 平均(+3.9%)と中央値(+1.5%)が乖離していることから、一部の銘柄が平均を押し上げている 4月末から5月にかけて、グロース、スタンダード市場のいわゆる材料株が急騰している事例が目立ったことと符号。 尖度や歪度からもばらつきが多いことがわかる。
外れ値の影響が多いと考え、プライム市場に限定した基本統計量は次の通り。
項目 | 統計量 |
---|---|
平均 | 4.08 |
標準誤差 | 0.30 |
中央値 (メジアン) | 2.11 |
最頻値 (モード) | 0.00 |
標準偏差 | 12.20 |
分散 | 148.86 |
尖度 | 21.69 |
歪度 | 2.54 |
範囲 | 186.73 |
最小 | -27.29 |
最大 | 159.43 |
データの個数 | 1628 |
- プライム市場に限定してもばらつきが大きい
- 決算シーズンは、ボラティリティが大きいため、「ミッシング・ザ・ベスト・デイズ」が含まれている可能性がある 株価の長期的なリターンはごく限られた、急激に株価が上昇する「ベストな日」に集中していることが知られています。 これをミッシング・ザ・ベスト・デイズなどと言われており、バイアンドホールド戦略の根拠とされています。 決算発表や業績予想により、マーケットにその企業の成長性が知れ渡る瞬間に大きく変化していると考えることができそうです。 ミッシング・ザ・ベスト・デイズに関する言及は下記参照
Timing the Market Is Impossible
値上がり上位
- 9235 売れるネット広告社グループ(グロース市場)時価総額33億円/457円→1,510円 3.3倍
D2Cマーケティングを中心とした、企業です。2025年4月に新株予約権の行使による資金調達、そのほか、TiktokShop運営代行、自社アプリ、広告代理店拡大、M&A、業務提携など、多くのIRを出しています。
小型株で多くの材料があること、M&A戦略による拡大に期待が集まっているのかもしれません。
- 6574 コンヴァノ(グロース市場)時価総額81億円/1,876円→5,550円 3倍
関東、関西、東海地区でネイルサロンを展開している企業。
当初赤字予想でしたが、5月15日に発表した決算で黒字転換。当期予想も前期比4倍と急激な業績改善が見込まれて、株価も急騰。
- 341A トヨコー(グロース市場)時価総額108億円/800円→2,250円 2.8倍
主にインフラメンテナンス、特に老朽化したインフラの再生に特化した企業。2025年3月に新規上場。
2025年5月14日に発表した決算で、売上は前年比84.9%増の20億円、経常利益は前年同期は-1.5億円から+2億円と黒字転換達成。インフラメンテナンスという時代の流れもあり、株価が約2倍に急騰しています。
プライム市場に限定すると、次の3銘柄が上位。
- 4784 GMOインターネット(プライム市場) 時価総額3,202億円/1,166円→3,025円 2.5倍
GMOグループのWeb広告代理店。グループ再編、内需株で買われている?
- 3341 日本調剤(プライム市場) 時価総額462億円/1,490円→3,225円 2.1倍
関東甲信越の門前薬局で調剤薬局で業界2位。MOBによる非公開化の報道後急騰。
- 9066 日新(プライム市場) 時価総額736億円/4,745円→8,120円 +70%
物流大手。MBOによる公開買付8,100円。
値下がり上位
- 260A オルツ(グロース市場) 時価総額186億円/513→91円 -82%
AI議事録。粉飾決算疑い。
- 278A Terra Drone(グロース市場) 時価総額863億円/9,270円→4,895円 -47%
産業用ドローン。ロックアップ期間終了による、大口売却の思惑による需給悪化懸念。(その3月半ばからじわじわ下がっているような)
- 264A Schoo (グロース市場) 時価総額193億円/1,559円→850円 -45%
リスキリング。業績の下方修正。
プライム市場に限定すると次の3銘柄。
- 9612 ラックランド (プライム市場) 時価総額176億円/1,700円→1,236円 -27%
店舗運営企画施工。株主優待廃止。
- 9341 GENOVA (プライム市場) 時価総額175億円/988円→729円 -26%
医療情報サイト運営。連結営業減益。
- 5726 大阪チタニウムテクノロジーズ (プライム市場) 時価総額708億円/1,924円→1,454円 -24%
チタン製造。業績悪化、配当減少。大阪チタ(5726)決算分析:営業利益▲60%の真相と反発シナリオ
出来高増加率上位
- 7694 いつも(グロース市場)
EC支援。ソーシャルコマース専門クリエイター事務所を設立
- 3639 ボルテージ(スタンダード市場)
ソーシャルゲーム。材料見当たらず、小型かつ、エンタメ系で?
ニンテンドースイッチのソフト『AmuLit』を6月販売開始。
- 9241 フューチャーリンクネットワーク(グロース市場)
Webメディア、ふるさと納税関連。人工知能のIR「地域情報特化型AIエージェント「まいぷれくん」」発表
プライム市場に限定すると次の3銘柄。
- 6615 ユー・エム・シー・エレクトロニクス
電子機器を受託製造するEMS。前期赤字も今期予想黒字転換。
- 4506 住友ファーマ
製薬会社。営業利益は前期黒字転換、今期87.5%増予想。
- 1884 日本道路
清水建設子会社の道路舗装。親会社の清水建設1803によるTOB(2520円)
考察
- 今回の決算シーズンでは、業績よりも 材料株 が株価上昇の中心であった。
- グロース市場における材料株の急騰が、平均上昇率を押し上げる要因となった。
- 一方で、プライム市場に限定してもボラティリティは高く、決算発表の影響は明確。
- トランプ政権誕生による不透明感の後退が、地合いの回復に寄与した可能性がある。
- ミッシング・ザ・ベスト・デイズに代表されるように、 重要な上昇日を逃さない戦略が有効であると確認された。