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証券口座乗っ取り事件の実態と推定ターゲット銘柄:データ分析で浮かび上がる異常値パターン

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証券口座乗っ取りと相場操縦の可能性:2025年の不正取引を追う

2025年3月ごろから証券口座の乗っ取り=ネット証券の不正ログインによる利用者の意図しない売買が発生しているとネットで話題になっている。

下記ニュースによると、2025年2月から4月までの3か月で不正な取引はおよそ1,400件で、被害額は900億円を超えていると報道されている。(1件あたり6,000万円強)

参考:“証券口座乗っ取り”被害 大手10社が顧客に補償の方針 一部会社は「全額補償」も 不正取引1400件、被害額900億円超

時系列をChatGPTにまとめてもらった。

ChatGPTによる証券口座乗っ取り事件の時系列整理

2024年末から2025年にかけて、日本の証券会社で相次いだ「証券口座の乗っ取り被害」について、主な出来事を時系列でまとめました。

🗓️ 主な出来事一覧(2024年11月〜2025年8月)

不正被害について

各証券会社の対策として、次のような売買停止があげられている。

このことから、ビットコイン流出のように別の口座に送金ではなく、不正ログインした人間が売買を行っていると考えられる。

※証券口座の送金は時間差があることと、日本国内の銀行口座の登録が必要であり手間がかかるからではないかと思う。

つまり、他人の口座を使った売買によって利益を上げるということである。

いわゆるフロントランニングを実行しているという仮説が立てられる。

フロントランニングとは、他人の注文を事前に知ったうえで、自分の注文を有利な価格で先回りして出す行為であり、通常は金融機関の内部者による禁止行為として知られている。

今回は、不正ログイン者が事前に自分の本来の口座で買っておいた株を高い値段で他人の口座に買わせることをしているのではないかと考えられる。

しかし、このような行為が現実に可能だったのかを検証する必要がある。

NTTや三菱UFJのような大型株で、多くの人が注目している銘柄では難しいだろう。

東証に上場している企業の中には、流動性(=いつでも、どの量でも売買できるか)が低い銘柄がある。

特に、東証スタンダードに上場している銘柄は、上位20%を除き、1日の売買代金は3,000万円を下回っている。

特に下位になると、数十万円~数百万という銘柄も多く、注文が出ている板もスカスカである。

例えば、200円台の銘柄は1円刻みで注文を入れられるが、最高値の買い注文が200円買いで最安値の売り注文が240円売りというようなことがある。

この場合、最後に約定した価格が仮に220円だとしても、買うには240円の売り注文にぶつける必要がある。

また、このような銘柄の場合は、注文が出ている総数も小さいため必要な数量の売買が難しい。

先の例で言えば、240円で買ったとしても、ログインした他人口座で260円で買い注文を出して、それにぶつける形で売り注文を出せば、20円分儲かるはずである。

分析手法

上記の被害状況から考えて、特に低位小型株を中心に ①株価変動率の変化 ②出来高の急騰が考えられる。

それを抽出するために、次のデータ集計を行い、異常値検出を行う。

  1. 2024年9月~2025年4月の株価データを抽出する
  2. TR(True Range)を計算する ※TR(True Range)は、当日高値・安値・前日終値の3点から最も大きな値幅を取ることで、ボラティリティの大きさを表す指標である。
  3. 前半2024年9月~2024年12月、後半2025年1月~2025年4月までのそれぞれ4ヶ月間のTRの終値に対する比率と売買高の銘柄ごとの平均を計算する
  4. TRの終値に対する比率の平均と売買高平均のZスコア※を計算する
  5. 散布図にして、原点からの距離が大きい銘柄を探索する

Zスコアとは

標準化された尺度を使用して、各データ値が平均からどれだけ離れているかを測定する方法である。

つまり、 (各点のデータ - 平均値) / 標準偏差 で計算される。(0を平均とする偏差値と考えられる)

分析結果

  1. 対象銘柄をETF・ETN・REIT・ベンチャーファンド・カントリーファンド・インフラファンドとする 楽天証券などでは中国株の直接取引が可能であるが、ETFの可能性もあると考え、上記の分析を表題の銘柄を対象に実施した。

ETF等のZスコア散布図

codename
2860NEXT FUNDS ドイツ株式・DAX(為替ヘッジあり)連動型上場投信
2553◎One ETF 南方 中国A株 CSI500
1485MAXIS JAPAN 設備・人材積極投資企業200上場投信
2530◎MAXIS HuaAn中国株式(上海180A株)上場投信
2628◎iFreeETF 中国科創板50(STAR50)
2851iシェアーズ MSCI ジャパンSRI ETF
2092NZAM 上場投信 フランス国債7-10年(為替ヘッジあり)
2629◎iFreeETF 中国グレーターベイエリア・イノベーション100(GBA100)
1490上場インデックスファンドMSCI日本株高配当低ボラティリティ(βヘッジ)
1596NZAM 上場投信 TOPIX Ex-Financials

Zスコア距離分析により、不自然なボラティリティと出来高の変化が最も大きい銘柄群に「中国関連ETF」が複数ランクインしていることが判明した。 2553「One ETF 南方 中国A株 CSI500」のチャートと時系列は次の通り。

2553の日足チャート

日付始値高値安値終値出来高
2025年1月31日1,7302,0001,6901,713.50499,160
2025年1月30日2,3492,3492,3492,34919,290
2025年1月29日3,9124,1502,5402,849719,740
2025年1月28日1,869.502,1521,8342,152446,810
2025年1月27日1,7201,861.501,7001,752117,260
2025年1月24日1,656.501,6731,6451,670.5025,400
2025年1月23日1,6471,6891,6471,660.5023,500

この株価変動が大きく、出来高が増えた直後に「「One ETF 南方 中国A株 CSI500」の基準価額と市場価格の重要な乖離に関するお知らせ」が適時開示され、ETF基準価格(インデックスとなる価格)と実際の売買価格に差が大きいと注意喚起がされた。

急騰以前は、2万株程度のため、3000万円程度の流動性しかなかったが、最大で70万株で4,000円台より28億円まで流動性が増えている。 もちろん、ETFの月末要因や2025/1/27のDeepSeekショックの裏返しで中国株の期待が春節による中国市場の休場など、複数の要因がありえる。 しかし、価格が2日程度で2倍、売買代金が100倍近く増えるには、需給要因以外があったと考えることができるだろう。

特に、ETFの場合、NAVと市場価格の乖離を利用するアービトラージが通常機能している。 今回のように売買量が大きく市場価格が暴騰したということは、マーケットメイクの機能が一時的に壊れていたとも言える。

よって、次のような構造的な仮説が立てられる:

  1. 対象銘柄をプライム・グロース・スタンダードに上場企業とする 上記1の分析結果により、Zスコア距離による異常値検出がある程度機能するという仮説のもと、東証上場企業の分析を行う。

プライム・グロース・スタンダード上場のZスコア散布図

codename時価総額材料
5243note276億円ココナラ4176の株式取得
302Aビースタイルホールディングス20億円12月新規上場
5277スパンクリートコーポレーション42億円株式併合による上場廃止
297Aアルピコホールディングス178億円12月新規上場
3823THE WHY HOW DO COMPANY114億円EV充電インフラ事業
304Aフォルシア25億円12月新規上場
4896ケイファーマ87億円臨床研究の成果発表
3987エコモット21億円国土交通省技術提案が採択
3137ファンデリー41億円☆ 2025年4月販売拡大のIRあり
303Avisumo17億円12月上場
9238バリュークリエーション26億円事業譲受
4676フジ・メディア・ホールディングス6927億円コンプライアンス問題
4889レナサイエンス131億円12月新規上場
4240クラスターテクノロジー18億円 ☆ 2025年4月上方修正
6171土木管理総合試験所52億円八潮市道路陥没事故から社会インフラ物色
2385総医研ホールディングス33億円業務提携
254AAIフュージョンキャピタルグループ105億円ビットコイン
298AGVA TECH23億円12月上場
8143ラピーヌ7億円
5721エス・サイエンス99億円ビットコイン

目立った材料がない3銘柄を取り上げる。

3137ファンデリーの日足チャート

紫枠の部分でローソクの上下にヒゲができて、出来高が増えている。特筆すべきニュースリリースや業績発表は確認されていない。

4240クラスターテクノロジーの日足チャート

紫枠の部分で目立った材料は見当たらないが、出来高を伴って急騰。

8143ラピーヌの日足チャート

紫枠の部分で上ヒゲを伴い出来高が急増

材料のないタイミングで、出来高を伴った急騰や長いヒゲ(上下に大きな値幅)を形成している銘柄が複数確認された。 これらは板が薄い中で一方向の注文が入っただけで起きる値動きではなく、実際の売買が伴って価格が形成されたことを示している。 通常であれば価格が動かない銘柄に、何らかの意図を持った資金の流入があった可能性があると考えられる。

そのため、不正取引またはそれに準ずる動きがある可能性を捨てることはできない。

また、興味深いことにこのような値動きのあと、何かしらの材料とともに急騰しているのである。 特に、ファンデリーの場合、健康食の販売拡大という、普段であればそこまで注目されない材料であがっている。 もちろん、小型株のため、販路が広がることによる影響はかなり大きいと言えるが、市場の注目を集めるかというとそこまでではないのではと考える。 時価総額も41億円と小さく、実際の数字が出てから出ないと機関投資家やポジションの大きい個人投資家でもなかなか手が回らないと考えられる。

考察

まとめ

ETFは事前の報道から整合性の取れる結果となった。しかし個別株においては、材料の有無を含めた分析が必要そうである。 また、新規上場等で出来高が急落する場合もZスコア距離は大きくなる。方向を加味した分析が必要である。 しかし、興味深い動きを観測できたことから、このZスコアを元にトレード戦略を検討できると考える。 今回使用したデータは、株価4本値と出来高だけである。つまり、バックテストがしやすいため、今後の課題とする。

ETFと個別株、それぞれに現れた“異常な動き”をどう捉えるか。 本記事で用いたZスコア分析は、その第一歩にすぎない。 今後、定量データと材料(定性)の一致・不一致に注目することで、意図的な仕掛けの痕跡をより明確に検出できる可能性がある。 市場に潜むノイズとパターンを見抜く力が、個人投資家の武器になりうるのではないか。